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UPOV条約における育成者権の例外についての注釈

UPOV/EXN/EXC/1

DATE: October 22, 2009

 

前文

1.本注釈は、1991年UPOV条約における、育成者権の例外についてガイダンスを提供することを目的としている。条約締結国の義務は、UPOV条約の条文中に定められているものに限られ、注釈については、これに関係する締結国の関連法令と不一致のないように解釈されなければならない。

 

2.本注釈のセクションⅠは、1991年条約の第15条(1)が規定する義務的な育成者権の例外についてのガイダンスを提供し、セクションⅡは、1991年条約の第15条(2)が規定する任意的な育成者権の例外についてのガイダンスを提供する。

 

セクションⅠ:育成者権の義務的例外

(a)関連条文

 

 

3.1991年条約の第15条(1)は、義務的な育成者権の例外について定める。

 

(b)私的にかつ非営利目的で行われる行為

4.以下、上記の例外に該当する、あるいは逆に該当しないと考えられる行為を、それぞれ列挙する。

 

例外に該当しないと考えられる行為

5.第15条(1)(i)は、私的な性格を有し、かつ、非営利目的を有する行為は例外に該当することを定めている。従って、非営利的目的を有する行為であってもそれが私的なものではない場合には例外には該当しない。

 

6.さらに条項の文言によれは、私的な行為であって営利目的を有する場合は例外に該当しないこととなる。よって、農業者が自己の経営地において自己の所有物として保護品種の種を保管している行為は、私的な行為とみられるかもしれないが、農業者がそのような種子を営利目的で保管しているのであれば、例外に該当しないこととなろう。なお、任意的な例外規定(第15条(2)を参照)は、農場における種子保管の例外として規定されたものである。

 

例外に該当すると考えられる行為

7.第15条(1)(i)の文言によれば、例えばアマチュアの園芸家が自分の庭に使用するためだけに品種を増殖する行為(すなわち品種の素材は第三者に提供されない)については、それが私的なものであって営利目的を有しないがゆえに、これが許容されることとなる。同じように、例えば農業者による食用農作物の生産のための品種の増殖であっても、農業者とその同居家族によりすべての作物が費消されてしまうのであれば、それは私的なものであって営利目的を有しないという範疇に含まれるであろう。それゆえ、いわゆる自給自足農業は、私的なものであって営利目的を有しないのであるから、育成者権の例外に該当し、そのような行為をなす農業者は、保護される新品種を自由に利用できることとなる。

 

(c)試験目的で行われる行為

8.育成者権は、試験目的で保護品種を使用する行為には及ばない。

 

(d)第15条(1)(iii)育成者の免責

9.第15条(1)(iii)は、他品種を育成する目的で行われる行為には育成者権は及ばないと定め、また、第14条(5)の規定が適用される場合を除くほか、当該新品種に関する第14条(1)から(4)までに規定する行為には育成者権が及ばないと定める。これは、品種保護のためのUPOV体系における基本的な要素であり、「育成者の免責」と呼ばれている。新しい植物品種を育成する目的で保護品種を利用する行為を規制しないということである。

 

10.第15条(1)(iii)の後段に定める、「第14条(5)の規定が適用される場合を除くほか、当該新品種に関する第14条(1)から(4)までに規定する行為」という部分は、第14条(5)の規定が適用される場合すなわち本質的に由来する品種であって保護品種と明確に区別することができず、かつその生産には保護品種を反復して利用することを要する品種を除き、得られた新品種の商業化は、当該新品種を育成するために使用された保護品種の権利者からの許諾を要しないことを意味している。

 

11.次は、ある者が、新しい品種であるCを育成するために保護品種Aと非保護品種Bを使用するという仮定におけるスキームをあらわすものである。品種Cの育成のために、何らかの許諾を得る必要はない。さらには品種Cの商業化にあたっても品種Aの育成者からの許諾を得る必要はないが、品種Cが本質的に由来する品種である場合、あるいは品種Aを反復して使用することが生産に必要な品種である、あるいは品種Aと明確に区別されない品種である場合は除かれる。

 (図は略)

 

セクションⅡ:育成者権の任意的例外

(a)関連条文

 

 

(b)任意的例外の適用の判断

12.第15条(2)は、任意的な育成者権の例外について定めているが、「各締約国は・・制限することができる。」とされている。したがって、第15条(2)が提供する選択肢を採用することが適切か否かの判断は、各締結国によることとなる。以下は、各締結国が任意的な例外を自国法に採用するか否かの判断に際してのガイダンスを提供することを目的としている。

 

13.任意的な育成者権の例外規定を適用するための方法を検討するにあたって、1991年外交会議(Diplomatic Conference)(UPOV刊行物346(E)「植物新品種の保護のための国際条約の改正のための外交会議」63頁参照)は、以下のとおり提言している。

「外交会議は、1972年11月10日、1978年1月23日及び1991年3月19日にジュネーブで改正された1961年12月2日の植物の新品種の保護に関する国際条約の第15条(2)について、これが、「農業者の特権」と一般に言われている慣行を、そのような慣行が一般化していない締結国のおける農業分野ないし園芸分野にまで拡大する可能性を開いたものと解釈されてはならないことを提言する。

 

14.外交会議の上記提言は、任意的例外規定が、農業者が収穫物をその後の増殖のために保管することが一般的な慣行となっている締結国の作物を念頭においていることを意味している。

 

15.第15条(2)は、「各締約国は・・・農業者が、保護されている品種又は第14条(5)(a)(i)若しくは(ii)に規定する品種を自己の経営地において栽培して得た収穫物を、自己の経営地において増殖の目的で使用することができるようにするために、如何なる品種についても育成者権を制限することができる。」としている(下線は強調のために追加している)。

 

16.上記の文言からは、任意的例外規定を、収穫物が増殖の目的で使用される特定の作物に関連づけること、例えば、小さな粒の穀類であって、収穫された粒が種子すなわち増殖のための素材としても使用できる場合に関連づけることが考えられる。第15条(2)に関する外交会議の上記提言を考慮するならば、規定の文言は、任意的例外規定を、果物や観賞用植物、野菜など、収穫物を増殖の目的で使用することが一般的な慣行ではない農業ないし園芸分野に適用することは不適切であると示している。

 

(c)合理的な範囲内で、かつ、育成者の正当な利益を保護することを条件とする

 

17.上記(b)において、任意的例外はある選定された作物のために適用してもよいことを説明した。そのような作物に関し、UPOV条約第15条(2)は、以下のように定めている。

  「第14条の規定に拘らず、各締約国は、合理的な範囲内で、かつ、育成者の正当な利益を保護することを条件として・・・育成者権を制限することができる。」

 

18.任意的例外が適用される作物に関し、合理的な範囲内で、かつ、育成者の正当な利益を保護することを条件とするという点については、以下の要素あるいは以下の要素の組合せが何より考慮されるべきである。

 

品種のタイプ

19.特定の品種ないし属について任意的例外を適用することが決定された場合、一定のタイプの品種に対してのみ任意的例外が適用されることを明確にすることも可能である。例えば、一定のタイプの品種、例えば交配種や合成品種に対しては任意的例外を広げて適用しないことが考えられる。このような運用は、権限ある局において、はたして農業者が収穫物をその後の増殖目的のために保管することが一般的な慣行であるのか、そのようなタイプの品種に対して任意的例外を適用することが適切かを勘案することを認めることとなる。

 

経営地の規模、作物面積、作物の価値

20.合理的な範囲及び育成者の正当な利益を保護することの条件を確立するための要素は、例えば農業者の経営地の規模、農業者によって生育されている作物面積、収穫物の価値である。したがって、小規模農家であって小規模の経営地(小規模の作物地域)を保有する者は、大規模農家よりも、異なる範囲で異なるレベルの報酬により農家保管にかかる種子を使用することを許されることもある。しかしながら、小規模農家を認定するための経営地のサイズ(あるいは面積)は、合理的な範囲及び育成者の正当な利益を保護することの条件を判断するにあたって、各締結国により異なることも許容される。

 

 例

 A国において、10ha以下の経営地(あるいは作物地域)を有する農業者は、Xという作物の生産の5%を占めるにすぎない。そのため、A国においては、10haを小規模農家の基準とし、小規模農家は作物Xについて少ないあるいはゼロの報酬の支払義務を定めることは、育成者の報酬全体に対する影響は少ない。他方、B国において、10ha以下の経営地を有する農業者により作物Xが生産される割合が90%を占めるという。そうするとB国において、10haを小規模農家の基準とし、小規模農家は作物Xについて少ないあるいはゼロの報酬の支払義務を定めることは、育成者の報酬全体に対する影響は甚大である。このようなアプローチが合理的な範囲内であって育成者の正当な利益を保護することの条件となりうるかは、各締結国の関連法令との関連において考慮されるべきである。

 

収穫物の割合あるいは量

21.上記のほか、合理的な範囲及び育成者の正当な利益を保護することの条件を確立するための他の要素は、任意的例外の対象となりうる作物の割合や量である。例えば、各締結国は、農業者が増殖に使用できる収穫物の割合の上限を定めるという方法を選択できる。ここに定められる割合は、農場(作物面積)のサイズや、農業者により使用される農家保管の種子の割合との関係で基準報酬として定められている報酬レベルとの関係で変わりうるものである。さらには、任意的例外が適用される収穫物の量は、農業者が当初に入手した保護品種の素材の量との比較において、その農業者の経営地において生育するに適切な量として、あるいはその農業者と同居する家族が消費するものとして合理的な量として、決定することもできる。また、収穫物の量は、その収穫物を使用して生育できるエーカー数の上限として規定することもできる。

 

状況の変化

22.植物品種の保護制度は、新品種の開発を推奨するものであり、そのためにその後の増殖に用いることができる収穫物(農家保管種子)の水準が変化することがある。加えて、農業事業や育成ないし増殖手法の進化、経済の発展は、増殖に用いることができる収穫物の水準を変化させることがある。したがって各締結国は、例えば、農家保管種子の水準を、植物品種保護制度が導入される以前の一般的な慣行における水準内に制限するということもできるであろう。

 

報酬

23.任意的例外が適用される作物については、育成者に対する報酬の支払義務を規定することも、育成者の正当な利益を保護することの条件として考慮される。

 

(d)農業者の経営地

24.任意的例外は、次の制約がある。

「農業者が、保護されている品種又は第14条(5)(a)(i)若しくは(ii)に規定する品種を自己の経営地において栽培して得た収穫物を、自己の経営地において増殖の目的で使用することができるようにするために」

上記文言によれば、任意的例外は、農業者が自己の経営地において収穫した収穫物の使用に対するものであることは明白である。そのため、例えば、任意的例外は、別の農業者の経営地で収穫された収穫物には及ばない。

 

(e)第15条(2)の任意的例外規定の導入

25.1991年UPOV条約の任意的例外の定めは、特定の作物について、農業者が増殖の目的で収穫物を保管することが一般的な慣行であることを認めているのであり、各締結国においては、植物品種保護制度を提供するにあたり、作物ごとにそのような慣行と課題を勘案することを許容している。また、「合理的な範囲内かつ育成者の正当な利益を保護することを条件として」という文言は、任意的例外が導入されるとしても、育成者に新品種を開発させるというUPOV条約が提供するインセンティブを損なうものであってはならないというアプローチと一致している。

 

26.第15条(2)の導入をするのか、いかなる内容でなすのかは、各締結国の判断によることが強調されている。導入に際してとりわけ考慮すべき要素は、育成に対する影響、実現のための費用と仕組み、農業に対する全般的な影響である。利害を有する団体、これに育成者や農業者が含まれることは明らかであるが、の意見を参照することや、効果を見極めることは、同条の導入の成功を導くためには重要な手法である。

 

27.時間の経過により、農業事業や育成ないし増殖の手法の進化、経済の発展により、導入された任意的例外の仕組みを修正する必要も生じることとなる。それは各締結国が植物品種保護により最善の利益を保証するためにも必要である。そのため、そのような改正をしやすくする実用的な規定を法体系のうちに含めることも有益である。

 

28.加えて、各締結国における立法機関は、UPOV事務局に連絡を取り、その国の状況に関連があると思われる、他の締結国の法令の例について情報を得ることを勧めたい。

1991年条約 第15条 育成者権の例外

(1)[義務的例外]育成者権は次の行為に及ばない。

(i) 私的にかつ非営利目的で行われる行為

(ii) 試験目的で行われる行為

(iii)他品種を育成する目的で行われる行為、及び第14条(5)の規定が適用される場合を除くほか、当該新品種に関する第14条(1)から(4)までに規定する行為

(略)

1991年条約 第15条 育成者権の例外

(2)[任意的例外]第14条の規定に拘らず、各締約国は、合理的な範囲内で、かつ、育成者の正当な利益を保護することを条件として、農業者が、保護されている品種又は第14条(5)(a)(i)若しくは(ii)に規定する品種を自己の経営地において栽培して得た収穫物を、自己の経営地において増殖の目的で使用することができるようにするために、如何なる品種についても育成者権を制限することができる。

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